◆単純承認と限定承認◆
■単純承認とは
相続の【単純承認】とは、被相続人の持っていた財産を無制限に引き継ぐという意思表示です。
プラスの財産だけでなくマイナスの財産も承継してしまいます。
受け取る財産は、現金や預貯金、不動産といった嬉しい財産だけではありません。
借金や保証人の地位、滞納している税金などの債務も受け継いでしまいます。
他にも生前に物件を売却し、その移転登記がされていないような場合には、買主のために移転登記を完了させなければないないという登記義務を引き継ぐこともあります。
このように、単純承認とは故人に属していた一切の相続財産を承継することです。
■限定承認とは
【限定承認】とは、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の負債を支払うと条件をつけてする相続です。
故人が負っていた債務を遺産の範囲で弁済をすれば、それ以上相続人は支払う責任がありません。
限定承認すると債務の一部が消えてなくなると勘違いをしている人がいます。
しかし、限定承認は、相続放棄と違い故人が負っていた債務を全て引き継ぎます。
相続によって得た財産以上の債務が消滅するわけではありません。
仮に、相続人が自分の財布から相続財産以上に相続債務を支払ったとしても無効になるわけではありません。
その弁済は確定的に有効です。
弁済した金銭を後日、不当利得として返してもらうことはできません。
限定承認とは相続した遺産以上に支払う責任がないだけです。
相続債務の一部が消滅するわけではありません。
では限定承認とは、どういう場合に利用されているのでしょうか。
「相続財産を調査してプラスとマイナス、どちらの財産が多いのか判断する」と言葉で言うのは簡単です。
ですが、実際にすべての相続財産を把握し、各財産を適正に評価するのは簡単な作業ではありません。
そもそも故人が借入をしていたのか、保証人として契約を結んでいたのか、その保証債務を支払う可能性はどれ程あるのか、また、不動産・車・時計など実際にいくらで売却できるのか、これらを全て把握するのは容易ではありません。
時間も労力もバカになりません。
案件によっては、債務超過が明らかな案件ばかりではありません。
相続放棄が適当かどうか判断できないケースにも遭遇します。
このような場合に限定承認が力を発揮します。
限定承認とは、上述のとおり相続財産の限度で負債を支払えば、それ以上の責任は免除されます。
仮にプラスの財産が大きければ、故人が負っていた債務を精算し、それでも余った財産は相続人が取得することができます。
逆に負債がプラスの財産を上回っていれば、その相続財産の範囲で弁済すれば、それ以上の責任を追求されることはありません。
何も手に入れることはできませんが、自分の財産が傷つくこともありません。
相続人が自己の財産で弁済を強制される心配がないということです。
これだけ聞くと、限定承認はなんて便利な制度なんだ、さぞ利用されているのだろうと思うかもしれません。
しかし、相続放棄に比べて限定承認を申し立てる人は多くありません。
限定承認は、【相続放棄】と違って相続人ひとりから単独で手続きをすることはできません。
相続人全員で足並みを揃えて家庭裁判所へ申し立てをしなければなりません。
ひとりでも反対する者がいれば限定承認の効果を得ることはできません。
さらに限定承認が家庭裁判所に受け付けられると相続財産管理人を相続人の中から選任し、その者は遺産について財産目録を作り、それを基に精算業務をしなければなりません。
この精算業務が煩雑なのです。
最後に忘れていけないのが税金です。
限定承認を選択すると、相続放棄や単純承認には課税されない税金を負担しなければなりません。
そして、注意すべきは限定承認の効果により「免責される税金」と「免責されない税金」が混在するということです。
これを勘違いすると、予期せぬ税金の支払いに苦しむことになるでしょう。
所得税法第59条
1,次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があった場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があったものとみなす。
一 贈与(法人に対するものに限る)又は相続(限定承認に限る)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る)
二 著しく低い価格の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る)
2,省略
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この条文を簡単に説明すると、限定承認すれば「被相続人から相続人に対して相続財産の譲渡があったものとみなし」譲渡所得を課税するということです。
現金や衣類は譲渡所得税の対象ではありませんので税金を気にする必要はありません。
不動産や株式などの譲渡所得税の対象になる財産を相続する場合は、譲渡所得の課税範囲や金額について十分に注意を払い、相続の承認(単純又は限定)をするのか、それとも相続放棄をするのかを判断しください。
これを怠ると不測の損害に頭を抱え生活を送ることになるかもしれません。
