相続開始前の相続放棄

生前の相続放棄

生前(相続開始前)に相続放棄ができるのでしょうか。
Aさんから実際にあった相談です。

両親は離婚しており、Aさんは母親に育てられました。
離婚の原因は父親の借金です。
借金の理由はギャンブルとお酒。父親は毎日のように飲み歩き、皆が寝静まった頃に帰宅します。
朝方の帰宅も珍しくありません。仕事もせず、お金を借りてはパチンコ屋に入り浸っていたそうです。
Aさんは両親の離婚後、父親とは一切連絡を取っていません。

親の離婚は正式に成立していますが、戸籍上は親子関係であることに変わりはありません。
Aさんとしては、身に覚えの無い父親の借金を返すために働くのだけは避けたいそうです。
そこで、生前に相続放棄はできないのかと当事務所へ相談に訪れました。

Aさんの気持ちは、よくわかります。
しかし、残念ながら生前に相続放棄をすることはできません。

相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述しなければなりません。
相続放棄は、相続開始後に手続きをするものと法律で定められているのです。
たとえ相続人間で相続放棄について合意が成立していたとしても、法が定める相続放棄の効果はありせん。

相続とは、被相続人から遺産を引き継ぐことができる「相続権」という権利を行使するものと考えることができます。
この相続権は、ある人の死亡に起因して発生する権利です。
死亡前は権利自体がありません。
存在していない権利を放棄することは理論上ありえません。

つまり、生前には相続権が発生していないので、その放棄である相続放棄は認められないということです。

また、親から特定の相続人に圧力をかけて相続放棄を強制することも考えられます。
家業を営んでいる家庭に見られるパターンです。
事業を承継する長男に財産を集中させるために、それ以外の相続人に相続放棄を強制するケースは少なくありません。
このような弊害を避けるためにも、生前の相続放棄は認めるべきではないのです。

相続とは、残された相続人の生活を保障するための制度でもあります。
相続を承認するのか、相続放棄をするのかは、相続人が自らの自由な意思で判断すべきなのです。

相続放棄は、自分以外の第三者から強制されるものではありません。
相続財産の状況や、自身の経済状態、他の相続人の生活環境などを総合的に判断し、自分で相続放棄をするのか、相続を受けるのかを判断すべきなのです。

相続開始前の相続放棄

遺留分の放棄

どうしても生前に特定の相続人に遺産を集中させたい場合には、【遺留分の放棄】という手法を選択することができます。
ただし、相続開始前に遺留分を放棄するためには家庭裁判所の許可を得なければなりません。


【遺留分】とは、相続人が最低限、取得することが保証された財産のことです。
残された相続人の最低限の生活を保障するための制度です。

容易に放棄が認められてしまうと遺留分という制度が骨抜きになってしまいます。
そうならないために遺留分を放棄するに値するだけの合理的な根拠があるのかを家庭裁判所に判断してもらうことになります。

裁判所が許可する基準は次のとおりです。

1.本人の自由な意思に基づくものであること
2.放棄に合理的な理由が存在すること
3.代償性があること(放棄と引き換えに贈与等があること)

以上からもわかるとおり、本人の協力が必要不可欠です。
遺留分の放棄を利用して特定の相続人に遺産を集中させるにしても第三者が強制的に、それを作り出すことは不可能ということです。

最後に忘れてはならないことがあります。
それは、「遺言」により事業を承継させたい相続人に、株式やその他の事業継続に必要な財産を贈与することです。

遺留分の放棄は、相続放棄と違い相続権を奪うものではありません。
相続人であることに変わりはありません。

相続が開始すれば、他の相続人とともに法律に定められた相続分の範囲で財産を取得することができてしまいます。
遺留分の放棄だけでは、特定の相続人に相続財産を集中させることはできません。

遺留分とは、遺言や生前贈与などにより自分以外の第三者へ遺産のすべてが贈与されてしまったような場合に、遺留分の範囲内で遺産を取り戻すことができる権利です。
遺留分の侵害が生じていないケースでは、遺留分を放棄していようが、そうでなかろうが違いはありません。

遺留分を放棄した相続人も、相続放棄をしない限り相続人のままです。
特定の相続人に遺産を集中させるためには「遺留分の放棄」と「遺言」の合わせ技で実現させなければなりません。

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