相続放棄と特別縁故者の財産分与
相続放棄と特別縁故者の財産分与
相続人は、熟慮期間中に家庭裁判所に相続放棄の申述をなし、それが受理されると初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。
相続放棄をした相続人は、相続財産を管理することができなくなりますが、その放棄によって新たに相続人となった者が財産の管理を始めることができるまでは、自己の財産におけるのと同一の注意をもって相続財産を管理することになります(民法940条1項)。
この新たに相続人となった者には、後順位の相続人だけでなく、共同相続において相続放棄をしなかった共同相続人も含まれます。
後順位の相続人を含む相続人全員が相続放棄をした場合、相続人不存在の状態となります。
その結果、相続財産を管理する者がいなくなりますので、相続財産は法人化され(民法951条)、相続債権者などの利害関係人の請求によって、相続財産管理人を選任し相続財産を引き継ぐことになります。
そして、相続財産管理人が相続財産を精算しても残存する相続財産がある場合、家庭裁判所が相当と認めるときは、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、財産分与がなされることになります(民法958条の3)。
それでは、相続人の相続放棄によって相続人不存在となった場合に、相続放棄をした相続人自身が、特別縁故者として財産の分与を受けることは認められるのでしょうか。
確かに相続放棄をした相続人は、本来無条件で相続財産を取得できたはずなのにもかかわらず、あえて相続放棄を選択し、その結果相続人不存在の手続が開始した後に相続財産の分与を申し立てるのは矛盾する行為だと感じられます。
また、相続債務(借金)がプラスの相続財産より多いかどうか不明なときは限定承認の手続があるので、相続放棄をした後に財産分与の申立てをするという方法は認めるべきではないという考え方もあります。
しかし、被相続人唯一の相続人が、相続債権者からの執拗な際限のない請求を危惧して相続放棄をしたが、相続財産について精算が終了したので相続財産の分与を申し立て、認められた事例があります(広島高等裁判所岡山支部決定平成18年7月20日)。
この判例では、申立て自体が認められるかどうかの言及はありませんが、特別縁故者の財産分与申立ての一般的な判断と同じく、あくまで申立人と被相続人との縁故関係の濃淡を判断して財産分与を認めていますので、相続放棄をした相続人であるということだけで特別縁故者の財産分与申立てが出来ないということはないと思われます。
なお、上記判例では、被相続人の負債について、債権者から執拗で際限のない請求がされることを危惧したために相続放棄の申述をしたという相続放棄の理由にも言及していますので、相続放棄をした後に特別縁故者の申し立てをすることが矛盾しないということが理由として求められていると思われます。