熟慮期間の始期

熟慮期間が始まるのはいつ?

相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」 に家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。
(詳しくは、「相続放棄できる期間」へ)


この3ヶ月は、相続開始の原因である事実と自分が相続人である事実を知った時から進行します。

相続財産の存在を把握せずとも熟慮期間のカウントダウンは始まってしまいます。
マイナス財産の有無やその金額を認識することまでは求めていません。

相続財産の調査は熟慮期間中にすべきだというのが法の考え方です。
熟慮期間スタートの要件に遺産の把握まで含めてしまうと、何年経っても相続関係が不安定になる危険が伴ってしまいます。
そのため遺産の把握は熟慮期間スタートの条件とはしていないのです。

実際に寄せられた相談をご紹介します。

相談者は43歳の女性です。

母が他界し、相続人は子供である私しかおりません。
母は公営住宅を借り生活していたので不動産は所有していません。
これといって相続財産もありませんでした。
葬儀も済ませ、何もしないまま母の一周忌を迎えました。

すると突如、債権者と名乗る者から支払督促が自宅に届きました。
母が私に秘密で友人の連帯保証人になっていたようです。
その友人は音信不通になってしまい、そこで保証人になっていた母宛に督促状が送られてきたようです。

私は気が動転してしまい何が起きたのかわからず、頭を整理することができませんでした。
相続開始から3ヶ月が過ぎてしまうと相続放棄はできないと聞きました。
どうしたらよいのかわかりません。助けてください。

このような状況で当事務所に相談に来られました。

不意討ち的にこのような書面が自宅に届いたら驚くのも無理がありません。
上述のとおり相続放棄の熟慮期間は相続財産を認識しなくても進んでしまいます。
借金や保証人の地位といったマイナスの財産を知らなくてもスタートしてしまうのが大原則です。
原則論から考えると相続放棄は認められません。

しかし、特別の事情がある場合には、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識した時、または通常これを認識できるはずと考えられる時から熟慮期間が進行するとされています。

特別の事情について最高裁判所は次のように判事しています。

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    相続人に対し単純承認若しくは限定承認又は放棄をするについて三か月の期間(以下「熱慮期間」という。)を許与しているのは、相続人が、相続開始の原因たる事実及びこれにより自己が法律上相続人となつた事実を知つた場合には、通常、右各事実を知つた時から三か月以内に、調査すること等によつて、相続すべき積極及び消極の財産の有無、その状況等を認識し又は認識することができ、したがつて単純承認若しくは限定承認又は放棄のいずれかを選択すべき前提条件が具備されるとの考えに基づいているのであるから、熟慮期間は、原則として、相続人が前記の各事実を知つた時から起算すべきものであるが、相続人が、右各事実を知つた場合であつても、右各事実を知つた時から三か月以内に限定承認又は相続放棄をしなかつたのが、被相続人に相続財産が全く存在しないと信じたためであり、かつ、被相続人の生活歴、被相続人と相続人との間の交際状態その他諸般の状況からみて当該相続人に対し相続財産の有無の調査を期待することが著しく困難な事情があつて、相続人において右のように信ずるについて相当な理由があると認められるときには、相続人が前記の各事実を知つた時から熟慮期間を起算すべきであるとすることは相当でないものというべきであり、熟慮期間は相続人が相続財産の全部又は一部の存在を認識した時又は通常これを認識しうべき時から起算すべきものと解するのが相当である(昭和59年4月27日最高裁第二小法廷 昭57(オ)82号)。
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この判例も原則として熟慮期間は、相続開始の原因である事実と自分が相続人である事実を認識すればスタートするとの立場に立っています。

そのうえで例外について判断を下しています。
被相続人の生活状況や遺産の性質、相続人と故人の交際状況から判断して相続財産がまったくないと信じていた場合、そして、そう信じたとしても仕方ない事情があれば、相続財産(借金など)を認識した時から熟慮期間がスタートするとしています。

以上のように、上記で紹介した相談ケースでも相続放棄が認められる場合があります。
相続が開始してから3ヶ月が経過している場合でも諦める必要はありません。
相続放棄の規定も万能ではありません。
実務では柔軟な運用がされているのも事実です。

気になることがあれば、迷わず弁護士や司法書士などに相談しましょう。

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