相続放棄ができないケース

相続放棄が認められない!?

被相続人が死亡すると、相続人は故人の遺産に属する一切の権利義務を承継することになります。
故人の遺産をすべて無条件に引き継いでしまいます。
プラスの財産だけでなくマイナスの財産も含め一切の相続財産を受け継がねばなりません。
自分で借りた借金でなくても返済義務を負ってしまうのです。

これを回避するために相続人には限定承認や相続放棄を選択する権利が与えられています。

そして、この限定承認や相続放棄の恩恵を受けるためには厳格な手続きをすべてクリアにする必要があります。
決められた手順を踏まなければ、その効果を受けることができません。
要件がひとつでも欠けていれば裁判所に却下されてしまいます。

では相続を受けたいと思った場合は何をすればよいのでしょうか。
相続をする場合は、相続放棄のケースと異なり何らの手続きも要求されていません。
法律上、規定がないからです。
うそだと思うのであれば六法を手に取り1ページから目を通してください。どうですか。ありませんよね。
相続の承認をするためには、役所に書類を提出したり、裁判所へ申述をしなければならないといった定めが存在しません。

極端な話、こころの中で相続を承認すると念じれば、それで終わりです。
それだけで遺産を取得することができます。それ以上、何をする必要もありません。( 第三者への対抗要件は別途備える必要がありますが、ここでは割愛します。)

ただ、相続の承認には、ひとつ気をつけなければならない条文があります。

たとえば、故人に多額の借入れがあり、相続が起きたら相続放棄をするぞ、相続をしたら大変だ、と考えている人がいたとします。
たしかに、相続放棄の申述をすれば借金の返済を免れることができます。
債権者から督促が届くこともありません。取立てに怯える必要もありません。

しかし、この思惑どおりに事が運ばないケースがあります。ある行為をすると「相続をしたことにされてしまう」場合があるのです。
それに該当すると相続放棄をすることはできません。
相続を承認したものと擬制され、被相続人の債務を、相続人が責任をもって返済しなければならなくなります。
相続放棄をするから取立てに来るなという主張は認められません。

このように、一定の行為をすると単純承認をしたものとみなされ、借入れも含め全ての財産を引き継がなければならない場合があるのです。
これを【法定単純承認】といいます。

    *********
    民法921条
    次に掲げる場合には、相続人は単純承認したものとみなす。
    ・相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。
    ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りではない。
    ・相続人が熟慮期間内に限定承認又は相続放棄をしなかったとき。
    ・相続人が、限定承認又は相続放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私かにこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。
    ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りではない。
    *********

■921条1項1号について


相続人が相続財産を処分すると相続を承認したものとみなされ、限定承認や相続放棄をすることができなくなります。
本号は、相続人が相続放棄などを選択する前の規定です。

では【相続財産の処分】とは、どういう行為を指すのでしょうか。
一般的には、財産の現状や性質を変更させたり、家の売却などのように財産権の移動を伴う行為を処分行為と定義しています。
しかし、この定義だけでは具体的に、どのような行為が相続財産の処分にあたるか判断に困ってしまいます。
そこで、過去の裁判例を振り返りながら法定単純承認に当たるケースを検証したいと思います。

●法定単純承認と判断された行為●

・不動産やバイク、車の売却
・遺産分割協議
・預貯金を引き出し、自分のために消費する
・不動産の登記名義を相続人に書き換える
・賃料の取立て
・賃料の振込口座を故人から相続人に変更する

●法定単純承認と判断されなかった行為●

・滞納していた税金の支払い
・葬儀費用の支払い
・墓石や仏壇の購入
・形見分け(経済的価値がない物)

これらは過去の裁判例に過ぎません。
もちろん判断材料にはなりますが、同じ行為であったとしても同じ判決が出るとは限りません。
相続人の経済状態や環境によっては違う判断が下ってもおかしくありません。

遺産に対する行為が、どの程度まで許容されるのかは個別に判断するしかありません、慎重に状況を見極め手続きを進めていきます。
細心の注意を払い検証していくしかないのです。

本規定は法的安定性の見地や取引の安全を図るために定められたものです。 どういうことでしょうか。

たとえば、ある相続人が故人名義の車を売って、その売却代金で自分のために時計を買いました。
みなさんは、この相続人は相続を受けたと思いますか。
それとも相続放棄をしたと考えますか。

ほとんどの方が相続を承認したと判断するはずです。

この一連の行動から相続したものと信頼して、その相続人と遺産を対象に契約を結んだ人がいたとしたらどうなるでしょう。
それが後になって相続放棄を理由に、取引が無効になってしまったら、相手方は不測の損害を受けてしまいます。
何を信じて取引をすればいいのかわかりません。
それでは、取引の安全は守れません。取引が停滞してしまいます。活発な取引が減少すると経済自体が萎んでしまいます。

そこで、取引の安全を図るため、そして法的安定性の見地から、相続財産の処分をすると相続の承認をしたものとみなすと定めたわけです。

■921条1項2号について


相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に相続放棄をするかどうかを決めなければなりません。
この期間を熟慮期間といいます。

この熟慮期間が経過すると自動的に相続を承認したものとみなし、相続財産の一切を引き継いでしまいます。
熟慮期間満了後は、限定承認や相続放棄を申述することはできません。

相続放棄に期限を設けないと、相続債権者などの利害関係人が不安定な立場に置かれてしまうからです。
(※詳しくは「相続放棄できる期間」を参照。)

■921条1項3号について


本号は、相続放棄が受理された後でも覆るケースを挙げています。
第1号と第3号の関係ですが、第1号が相続放棄前の場面を想定しており、第3号は相続放棄が受け付けられたあとのケースを想定し定められたものと考えられています。

第3号は前段と後段の二部構成から成り立っています。

前段:相続財産を隠匿し、これをひそかに消費した場合
後段:悪意で相続財産目録に記載しない場合

これらの行為に該当すると、相続放棄が認められた後であったとしても、その効果が覆り相続の承認をしたものとみなされてしまいます。
相続放棄が無効として取り扱われますので、借金などの負債や債務から解放されることはありません。

相続放棄や限定承認は、相続債権者よりも相続人の利益を保護しようとする制度です。
しかし、背信的な行為をした相続人を債権者の利益を犠牲にしてまで保護する必要はありません。
法は、背信者に相続放棄などの恩恵を受けることを許しません。
そこで、このような定めを置きました。

要するに、ズルは許さないという趣旨です。

ただし、相続放棄をしたことによって後順位の者が相続の承認をした後は、この限りではありません。後順位の相続人を保護するためです。

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