相続放棄と遺族年金
相続放棄をすると遺族年金は受け取れないのか
相続放棄を申述しても遺族年金を受け取ることができます。
相続放棄をすると遺産を受けとるはできません。
相続放棄の効果は相続財産およびそれに付随する権利関係についてのみ波及します。
逆に考えると遺産以外の財産に影響が及ぶことはありません。
遺族年金の法的性質が相続財産を構成するものであれば遺族年金を受け取ることはできません。
しかし、そうでなければ遺族年金を手に入れることができます。
結論としては先に述べたとおりですが遺族年金の法的性質について判断を下した裁判例をご紹介します。
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遺族年金を遺産として分割の対象とすることができるか検討するに厚生年金保険法58条は被保険者の死亡による遺族年金はその者の遺族に支給することとし、同法59条で妻と18歳未満の子が第一順位の受給権者としているが、同法66条で妻が受給権を有する期間、子に対する遺族年金の支給を停止すると定めている。
そして、妻と子が別居し生計を異にした場合でも分割支給の方法はなく、その配分の参考となる規定はない。そうすると同法は相続法とは別個の立場から受給権者と支給方法を定めたものと考えられ、相手方が支給を受けた遺族年金は同人の固有の権利にもとづくもので被相続人の遺産と解することはできない。それではこれを相手方の特別受益財産として遺産分割上の持戻し計算することができるであろうか。その場合受益額の算定は困難であり、かりに平均余命をもとに相手方の生存年数を推定し、中間利息を控除する計算式では約1400万となるが、これを相続開始時の特別受益額と評価するとことは明らかに過大であって、受給者の生活保証の趣旨に沿わない結果となる。更に遺族年金の受給自体民法903規定の遺贈又は生前贈与に直接該当しない難点がある。(大阪家庭裁判所昭和59年4月11日 昭57(家)3871号)
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この判例の言いたいことは、要するにこうです。
『遺族年金は遺産ではない。遺族が独自に取得する権利だ。相続財産ではないのだから相続放棄をしてももらえる』と判示しているわけです。
法が年金受給権を相続財産とみなしていない、と裁判所が判断した理由について考えていきましょう。
判例は相続における権利承継と年金法による年金受給権の相違点に着目して判断を下しています。
※年金法は正式名称ではありません。便宜上、年金法としています。
ここでは、国民年金法・厚生年金保険法・地方公務員共済組合法・国家公務員共済組合法などの総称と理解してください。
ここでは、国民年金法・厚生年金保険法・地方公務員共済組合法・国家公務員共済組合法などの総称と理解してください。
これからもわかるとおり、年金受給権は相続とは別個の立場に立ち規定していることがわかります。
年金受給権を相続と同じ性質と考えているのであれば、受取人や分配率を変える必要はありません。同一の客体に対する規定の内容が異なっていては法的安定性など望めません。
日常生活をいたずらに混乱させるだけです。それでは意味がありません。
ということは、国は年金受給権と相続を別個の存在だと考えていることが容易に判断できるわけです。
裁判所もその違いに着目して判示しています。
まとめ
遺族年金は、遺族固有の権利であるため相続放棄をしても受けとることができます。