相続放棄の取り消し?
相続放棄を取消すことはできるのか?
被相続人の財産を引き継がない方法として相続放棄という手段があります。
被相続人に多額の借入があり、相続をすると現状より経済的に悪化してしまう場合や相続をめぐるトラブルに巻き込まれないようにする場合などに相続放棄を選択することが考えられるでしょう。
この相続放棄を取消すことができるかという質問をよく受けることがあります。
残念ながら相続放棄を行うと、その取消しは認められません。
相続放棄の申述を家庭裁判所に申し立て、その申述が受理されたあとは、その相続放棄を取消すことはできません。
それを認めてしまうと、他の相続人や相続債権者あるいは後順位の相続人の法的安定性を害する危険があるからです。
他の相続人や後順位の相続人は、相続債務をどのように返済するのか、さらに相続財産の一部を現金化するために売却などの段取りを組んでいるかもしれません。
相続債権者も相続放棄により回収不能となった債権につき貸し倒れの処理をしているでしょう。
それが後日、相続放棄者の私的な都合により自由に撤回できたのでは法的な安定など望めません。取引の安全も図れません。
そこで、相続放棄が家庭裁判所で受理されると、その取消しは認めないとされています。
次に、熟慮期間中においては相続放棄の取消しは認められるのでしょうか。
相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述をしなければならないと明文化されています。
この3ヶ月の熟慮期間内であれば自由に撤回できるのではないか、という疑問が湧いてきます。
結論から申し上げると、熟慮期間中でも相続放棄の取消しは認められません。
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民法919条
1 相続の承認及び放棄は、第915条第1項の期間内でも、撤回することができない。
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相続放棄の取消しが認めない理由は先ほど説明したとおりです。
その制度趣旨から簡単に答えは導き出せたと思います。
ただし、例外もあります。
相続放棄は家庭裁判所に対してする意思表示です。
民法の一般原則が適用になります。仮にその意思表示に瑕疵があれば取消すこともできます。
相続放棄の取消しを認めていない理由は、相続放棄者の身勝手な行動で周辺の利害関係人に迷惑をかけないためです。
であれば、相続放棄を申述した者を保護する必要性が高い場合には取消権を否定する理由はありません。
具体的には相続放棄の申し立てが、第三者の詐欺や強迫によりなされた場合が、これに当たります。
相続放棄の意思表示が第三者の欺罔行為や強迫行為によって歪められたのであれば、その問題点を放置することはできません。
その意思表示を取消し、相続放棄が申述される前の状態に戻し、その者を保護しなければなりません。
詐欺や強迫以外でも次のようなケースでは家庭裁判所へ相続放棄の取消を請求することが認められています。
2.脅迫により相続放棄をした場合
3.成年被後見人が相続放棄を申述した場合
4.未成年者が法定代理人の同意を得ずに相続放棄をした場合
5.被保佐人が保佐人の同意を得ずに相続放棄をした場合
相続放棄の取消しは家庭裁判所に申し立てをしなければなりません。
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民法919条
4 限定承認又は相続放棄の取消しをしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
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利害関係人に大きな影響を与える行為であるため、裁判所による厳格な審査を求める必要があります。
そして、法的安定性を害する危険が高い手続きであることに考慮し、非常に短い消滅時効が定められています。
-除斥期間:相続放棄の時から10年
追認できる時とは、取消しの原因となる状況が消滅した時です。
相続放棄者が、欺罔行為や強迫行為を脱した時です。
相続放棄の意思表示の形成過程に違法性があり、相続放棄を取消すことができると認識したときと考えてください。