相続放棄と遺産分割の違い

相続放棄と遺産分割の違いって?

当事務所で相続のご相談にお越しいただいた方に、家族関係や今までの経緯などをヒアリングさせていただく中で、

「私は母の相続の時には相続放棄したんです・・・。」

「この前兄弟と話し合って自分は相続放棄したから・・・。」


という様なお話を聞く事があります。
しかし、さらに詳しくお話しを聞いてみると、法律上は相続放棄をした事にはなっていないというケースが多々あります。
これは言葉の意味合いとして「遺産を受け取らない=相続放棄」という誤解がされやすい事に原因があります。

一般的に「遺産を受け取らない」という行為の例としては下記のものがあります。

① 相続人全員の話し合いで自分は一切の遺産を受け取らない事にした(遺産分割)。
② 自分の法定の相続権を他の相続人に譲った(相続分の譲渡)。
③ 被相続人が生前に他の相続人に「全財産を相続させる。」という遺言を遺した。

これらの行為はすべて相続放棄をした事にはなりません。

①については単に相続人全員で遺産の分け方を決める「遺産分割協議」を行ったに過ぎません。
遺産分割協議書を作成のうえ、相続人全員で署名や押印(実印)がされていれば有効な合意にはなります。
これによって遺産分割協議通りに不動産や預貯金の名義変更をする事はできます。

しかし、被相続人の債務に関しては話が変わってきます。
まず、遺産分割協議書には不動産や預金についての記載があっても、借金についての記載がない事が非常に多いです。
これでは被相続人の債権者からの請求を拒む事はできません。
「遺産を受け取らない=債務を引き継がない」という訳ではありません。
また、遺産分割協議で「被相続人名義の借金は○○が相続する。」の様に誰が債務を引き継ぐか決めた場合であっても、それは相続人間での対内的な取り決めに過ぎず、その合意について承諾を得ていない債権者は相続人全員に法定持分通りの請求ができます。
当然、そのような合意には承諾してくれない債権者が多いでしょう。

同じような考え方で、②や③についても対内的な取り決めである事には変わりありませんので、承諾を得ていない債権者の請求を拒む事はできません。

つまり①~③は「遺産を受け取らないけど、債務は引き継いでいる」という事になります。

債権者の承諾を得ずに、債権者の請求を拒む事ができる唯一の手続きが、家庭裁判所でする相続放棄です。
正しい相続放棄をする事によって、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなされます。

つまり、被相続人の一切の権利・義務を引き継がなかった事になります。
その結果、全ての債権者の請求を拒否できる事になります。

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